リングの外に脚本は無い・・・『ビヨンド・ザ・マット』

 実にうまいことを言う。「リングの外に脚本は無い」・・・これは、アメリカン・プロレスの舞台裏を撮ったドキュメンタリー映画『ビヨンド・ザ・マット』のキャッチ・コピーである。

 この映画の冒頭は、子供の頃からその魅力に取りつかれていたという脚本家の以下のような言葉から始まる。

 「派手さがいい。パワフルで、下品なところも最高。プロレスは基本的に芝居と同じだ。ファンなら誰でも知ってる。プロレスが何か? スポーツであり、見せ物なんだ。合わせたものがプロレスさ。はっきり言うとプロレスはショーだ。だが100%ではない。勝敗も暴力シーンもすべて演出されてるが、流血やケガはまさに現実そのもの。プロレスを観てるといつも思うことがある。なぜ平気な顔して、相手の頭をポストに打ちつける? 彼らの素顔は?」

 ここから、様々なレスラーや、ビジネス・パートナー、家族といった人達をカメラが追っていくという映画である。

 一番の目玉は、資産10億ドルのアメプロ大帝国、あのWWFを取材。この社会的なメジャー感は、日本のプロレス団体とは比べ物にならない。

 そして、「いいのか?こんなところまで見せちゃって」っていうぐらいに、そのプロレスの舞台裏を赤裸々に紹介してしまっている。

 例えば、試合前の念入りな打ち合わせ風景や、戦うレスラー同士の仲の良いコミュニケーション・シーン、脚本家からの指導、など。WWFにはドラマのようにちゃんと脚本家がいるのである。そして、カメラ・アングルや音楽まで徹底した演出によって、超一流のエンターテインメントを提供していることがよくわかった。

 面白いと思ったのは、音楽の作り方で、そのレスラーの歩き方を見て、その歩調をリズムにして曲を作っているということ。ただ、ここでも同じ人間が何曲も作るのはどうかと思ったが。

 WWFの売りは「戦い」ではなくて「ショー」だという。「誰が勝とうが関係ない。会場が満員ならハッピーさ」ってことだが、このあたりは、「戦い」の重要性を説くアントニオ猪木の格闘プロレスとは相反する部分で、日本のプロレスの土壌とは大きく違う部分でもある。

 ただ、つい最近WWFが横浜アリーナで興業を行った際の日本のファンの熱狂ぶりを見てみると、随分変わってきたようだが。

 WWFはグッズの売り上げもすさまじいが、そのグッズを売るためにレスラーのキャラクターを作ったりもしている。

 個人的には、ここまでお芝居こいてしまっているプロレスというのは、好きではない。アメリカのレスラーはみんなこんなのか?って思っていたら、救いがあった。マイク・モデストという選手だ。

 彼は、APWというプロレスラーの養成所で、葬儀屋のバイトをしながら明日のスターを夢見て細々とレスラーをやっていた。彼は言う。

 「俺はアメリカのプロレスに限界を感じているんだ。日本へ行きたい。日本ではスポーツとしてプロレスを見てくれる。ところがアメリカではほとんど娯楽扱いだ。」

 そんな、彼はWWFのオーディション試合に出るのだが・・・。この映画の中では、先行きのメドが立っていないような終わり方をしている。しかし、彼は現在、三沢光晴率いる団体『プロレスリング・ノア』で、人気常連外人レスラーとなっているのだから面白い。

 おそらく、この映画の中のレスラーで、最も日本に馴染みがあるのは、あのテキサスの荒馬・テリー・ファンクだろう。彼の全日本プロレス時代における引退試合の感動的なシーンも、この映画の中で使われている。

 ここでは、今は無き団体ECWにおけるテリーの引退試合に向けてそれをとりまく家族や友人達との交流の様子を淡々と映し出しているのだが、その中にそれぞれの深い愛情が見てとれた。

 その中でショッキングだったのは、その引退の原因であるテリーの両膝のレントゲン写真だった。この膝でプロレスをやり続けていたとは!!

 テリーの試合を見守る家族や仲間のレスラーの表情は、心の底から彼を心配しているのが痛いほど伝わってくる。

 そんな、過激な試合をやってのけている男がWWFにもいる。日本ではキャクタス・ジャックとして、過激なデスマッチを行っていた、ミック・フォーリーだ。彼のファイトを是非この映画の中で確かめてほしい。家族でさえも死んだんじゃないかと思ってしまうほど、何メートルも上の金網やハシゴから落ちまくっている。

 彼のファイトを、リングサイドで見守っている奥さんと幼い娘と息子の様子をカメラが追っている。ミックは事前に「対戦相手のロックは本当は友達だから、芝居だから大丈夫なんだよ」と、子供達に心配しないように諭していた。

 しかし、そのあまりにも過激なファイトに、奥さんは何度も悲鳴を上げ、子供達は泣き叫び、とうとう外に出てしまう。試合後、血だらけのミックを拍手で迎えるスタッフと、レスラー達。抱擁する家族。その額はパックリと割れていた。すぐに縫合処置が行われる中を、奥さんが「もうやめて」と言った。

 「我々はエンターテイナーだ。大勢の人に感動を与えてる。」

 この言葉にプロレスラーのプロ意識ってものを見た!

 だが、この一部始終のビデオを見て、家族を脅えさせてしまっていることに気がついたミックは、このような過激なファイトから手を引いてしまった。

 この他、蛇男として一世を風靡したジェイク・ロバーツの転落人生にもスポットをあてている。

 冒頭のプロレスラーの素顔は?という問いに、この映画はこう答えている。

 「ショーマン、興行師、父親、息子、アーティスト、人形、平凡な悩みを抱える家族の一員だ。我々と変わらない。リングの中以外では・・・」

 この映画を見てもやっぱり、「プロレスは人生の縮図である!!」ってつくづく感じた。

 少しでも、プロレスに興味がある人なら、是非見てほしいと思う。

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